こんにちは。

割と人は気がつかないんですが、日常のどこそこにでも霊ってのは、条件さえ整えば姿を現すと思うんですね。

わたしの実家は、そういう面で出やすい立地ではあったんですよ。目黒から多摩へ、そして現在23区内に移ってはいるのですが、どうもね、どこも出やすかったんですよ。
目黒の 時なんか、ほんと真夜中にぱっちり目が覚めた、その数分後に、ひねらないとつかない裸電球がついてしまったんですね。そういうのも多かったですし、父と母 が、時間を教えようと思って買ってきた時計があるんですけれど、日取りを真夜中の12時に、パタパタ回転させて、曜日表示を変えたりするんですよ。アナロ グだったので、パネルの音は凄まじかった。人に何かあった時、時間を覚える癖が残った。

それ以上にわたしの父ってのは、割と馬鹿にしたような顔して聞いておきながら、「両親ともに揃って」そういう話が日常にあり、そういうもんはあるもんだと捉えていた事自体が、わたし自身の現在ある由縁です。

わたしの父方には、本家の寺があるんですけれど、そこへ連れて行かれたのはたった一回きり。何でも聞いたところによると、その頃「ルーツ」と言う映画が流行っていて、そ して父が尋ねに言ったらしいんですよ。ろくなメモを持参しないで行ったので、和尚さんに包んだお菓子の、「のし」の裏にメモを取って帰ってきた。その時連れて行かれたのですが、 わたしは、凄く怖かったんですね。その寺に、言い知れない恐怖を感じたんですよ。

なんせ、お堂の方でガタガタ音がする。和尚さんに、「あれは煩いが、何をしているのだ」と聞くと、話を中断された親は怒った顔であったが、それ以上に和尚さんは、大層冷ややかな顔で「この時期はね。あそこがガタガタ鳴るんですよ。気にしないんだよ。朋ちゃん。世の中には、色々なものがいて当然なんだから」

兄を焚きつけて、一緒に探検に行こうと思った。けれど、兄は既に真っ青な顔をして、絶対何しても動かない。いつもの兄らしくないなと思って、ちょっとトイレに行くふりをして、お堂を覗き込んだが、気配はない。けれど、ひとり、向こう側で座っている人がいた。

「あぁ、あの人が、何か掃除をしているのかな」

そう思ったら、安心して眺めていた。安置された沢山のお位牌を、その人がなめていたが、「そうやって綺麗にするもんなのか」と思ったわたしは、正直、馬鹿がつ く程素直だったのだろう。それ故に、見えた者に対して、見えたモノのやる事に対して、素直に受け止める習性があった。別に怖くもなくなり、安心して親の元に戻って、和尚さんに言った。「お位牌って、なめて綺麗にするもんなんですね。」

親はショックを受けた。和尚さんも動じまいと思ってたのか、その時、大人たちはかなりの挙動不審者だった。

けれど、親の聞きたい事は、自分たちの祖先は何をやっていたのか、そして何故、父を連れて満州に行ったのか、そしてそこで何が起きたのか、親目線で何を考 えたのか、何故この家にこう言う事が珍しくないのか、そういう事に終始聞き入っていた。けれど、納得のいく答えは無かったらしい。

帰り際には、またお堂を見たが、その人は、位牌をなめるのを止めて、お供物をなめていた。結構、その人はガタガタ震えながら、お供物をしゃぶっていた。果 物の皮をむかずにしゃぶっているのを見て、和尚さんに、あの人「お腹すいているんじゃないの?」と言った時の和尚さんは、泣き笑いの顔だった。

そして、一家揃って、引っ越しを重ねてそして23区に行く。相変わらず、家の中では、怪奇現象が多く、割と安心した。怪奇現象が起きる家には 割と慣れっこになった。真夜中に歩く音が一階で響く日には、親は、「寝たら絶対に一階に降りるな」と言った。けれど、それも、程なく、 わたしが出て行ってから、頻発する事は無くなった。

その代わり、わたしの新居が怪奇現象だった。主人はあり得ないと言うが、モノが落ちようと落ちまいと、事実は「片付けが増えること」だけである。わたしはそういう 思いで、淡々とやってきた。新倉イワヲの時代には、祓うって概念もあまりテレビに無く、キャー怖いで終わっていた。故に、そんなもんかと思っていた。

水を意味もなく、コップに入れてリビングに置いて、寝た日は、コップの水が半分になっていた。意味もなく、論理的理由もないまま、ごく普通に、置いておく 妻に、主人は非常に怖がったが、私自身は、「和尚さんが言ってたよ。あるものも、ないものも、そのままが世界だってさ」と。

故に、わたしの実家では、ひどく独特な風習を持っている。母がそれに固執する理由が分からなかった。けれど、息子を産んでみて、何となくわかる気がしてきた。 今になって、因果は大概片付いたので、昔ほどではない事、自分が家から出てみて、婚家の問題などを片づける間に、少しずつ、昔のあの凄さが薄れてきた。

けれど、今でも自分の地域が揺れる何分か前に目が覚める癖は直らないし、何か異変が起きる時の数分前にはやっぱり目が覚める。