こんばんは。

この話は、きぃちゃんの夏の続きなんですけれどね。

実は、プラモ屋から帰ってきて、わけわからない事をわめいて、高熱を出したきぃちゃんに、うちの亡き父が、行ったことがあった。あまりに、手馴れているので、その記憶があるんですよ。

父が帰宅してみると、きぃちゃんは、ぐったりしていたと聞きます。すると、父は即、自分の書き物机に向かい、そこに置いてあった大学名入りのレポート用紙を一枚めくって、万年筆を取り出してこう書いた。

 

「現実」

 

父はそれを器用に折りたたみ、きぃちゃんに持たせたという。そしてきぃちゃんにこういう風に言ったという。

 

「きぃ。現実を握り締めている人は、一番強いのだよ。きぃ。しっかりと、握りなさい。しっかりと握って、あの世の地獄から、この世の地獄である現実へ帰ってきなさい。地獄はどこも同じだ。」

 

きぃちゃんは、そのまま、うんうん、頷いて、そのレポート用紙を握り締めた。

 

「現実を握る。今は現実なんだ。現実なんだ。」

 

そして、きぃちゃんの熱は下がったそうだ。という後日談を後で聞いた。

そう言えば、私が、高校生の頃、わけわからなくなって、わめいてたときにも、父が平気な顔をして、原稿用紙に、

 

「現実」

 

って書いて握らせてくれましたっけ。あれは、父は父なりの苦肉の策だったんですね。

 

いや、それが効いたかどうかは、やはり、発動する人と、受け取る人との信頼関係に基づくわけだから、きぃちゃんは、父を無性に怖がっていたところがあるので、よく効いたけれど、高校一年生のわたしには、あまり効かなかったっけな。

父を思い出すとき、どうしても、レポート用紙に書かれた「現実」と言う言葉を思い出すし、万年筆を思い出す。

 

そういう理由があったんだな。

案外その当時のわたしには、変で意味深なラベルの酒をもったいぶって、奥から出してきて、ちょっと飲ませてくれるほうが、効き目があったような気がする(苦笑)。

 

 

 

兄より連絡を貰い加筆修正しました。


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